シカの恋の季節(平成30年11月16日)
“奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき”
突然ですが、こちらは百人一首でもおなじみの猿丸太夫の歌です。秋の奥山でシカのオスがメスを呼ぶ姿に、離れた女性を想う男心を重ねて詠んだと言われています。
実際、秋になるとニホンジカ(以下、シカ)は繁殖期を迎え、それまでメスの群れとは別に生活していたオスたちは、甲高い声でメスにアピールします。平安の人々にとっては、この歌の意味を理解できるほどシカの繁殖生態は一般的だったことに驚くと同時に、現代は自然との距離が離れてしまったということを思い知らされます。
ところで、最近は、シカが増え、六呂師高原でも秋にはしばしば鳴き声を耳にするようになりました。シカは森林だけでなく良質な餌場となる草原が入り混じった環境を好みます。森林はもちろん、牧場という広大な草原がある六呂師高原は、雪が降るまでは正に楽園のような場所です。
秋、夕方の牧場では、メスの群れに交じってたくましいオスが堂々とハーレムを築いている様子を観察できます。
自然観察の森に設置したセンサーカメラには、秋になるとそれまでほとんど写らなかった立派な角のオスが頻繁に写るようになりました。まずは、「どんぐりの小径」に仕掛けたカメラの映像です。
あっちへ行ったり・・・
こっちに来たり・・・
立派な角のオスが頻繁に写りました。
この場所では6月からカメラを設置しています。8月終わりまでの3ヵ月間はオスはたった1回(メス3回)しか写りませんでしたが、9月以降の2ヶ月半の間には12回もオスが写りました(メス0回)。 ※あくまで撮影回数で頭数ではありません。
続いて「アプローチ歩道」と獣道との交差点の映像です。牧場と森をつなぐ獣道は、イノシシやツキノワグマも利用しますが、秋はシカのオスが最も頻繁に利用していました。
ちなみに今回紹介したオスたちは、角が4つに分岐しているのがわかります。シカは成長とともに分岐数が多くなり、4尖のものは4歳以上といわれています。シカは2歳以上で繁殖能力を持つので、皆立派な成獣です。
ここでは若い個体を含むメスの群れも写りました。
六呂師高原周辺での具体的なシカの生息頭数は不明ですが、複数の個体が見られ、増えやすい状況にあることは間違いありません。
現在、増えすぎたシカによる農林業や生態系への被害も問題になっています。自然保護センターでは、希少な植物の宝庫である池ヶ原湿原での生態系被害の現状について調査中です。このお話はまたの機会にしたいと思います。