オニグルミの巧みな連携プレー(2016.5.19)
以前ご紹介したように、リスやネズミの大好物であるオニグルミの実。

クルミの実は私達にもなじみ深く、すぐにその形を思い浮かべることができます。
けれど、あの実ができるまでにどんな花が咲くのか知っている人はあまり多くありません。
今日は花の盛りを迎えたオニグルミの今をリポートしたいと思います。
オニグルミの花が注目されないのは当然です。
風に花粉を運んでもらうオニグルミの花は、目立つ必要がないので花びらがなく、葉と同じような色をしていて地味だからです。
ズバリこちらが花の写真です。
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オニグルミは、同じ枝にオスの花とメスの花を別々につけます(雌雄異花)。身近な植物ではキュウリなんかもそうですね。
枝からたくさんぶら下がっているものが、オスの花の集まり(雄花序)で、上に伸びるのがメスの花の集まり(雌花序)です。
既にメスの花は根元の部分は大きく膨らみ白い毛がたくさん生えています。この部分の中身があのおいしいクルミの実になるのです。
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もう受粉が終わり、これ以上花粉を受け取ることはありません。
ところが、オスの花を見ると、葯(やく)が開き花粉を出し始めたばかりのようです。
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このように、オスの花がメスの花より遅れて咲くことで、一本の木の中で受粉すること(自家受粉)を避け、異なる遺伝子を持つ別の木の花粉を受け取るための工夫をしているのです。
しかし、オニグルミの工夫はこれだけではありません。
自然観察の森にとなりあって生える赤青2本のオニグルミをよく見比べてみると面白いことがわかります。
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よく見ると左の木には、たくさんのオスの花がぶら下がっていますが、右の木には見当たりません。
右の木の花はまだ咲いていないのでしょうか、それとももう終わってしまったのでしょうか。
右の木をアップしてみます。

分かりにくいですが、ボロボロになったオスの花の集まりが3本ほど垂れ下がっています。
どうやらオスの花はすでに花粉を出しつくしてしまったようです。
ということは、先ほどのメスの花が先に熟するという例にしたがうと、この木のメスの花はずっと大きくなっているはずですね。
ではメスの花を見てみましょう。
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あれ、赤く若々しいめしべが目立ち、根元もあまり膨らんでいません。
この木は、先ほどの木と逆で、オスの花がメスの花より先に熟するようです。
オニグルミの場合、オスとメスの花が熟する順番には、2つのタイプがあることになります。
これはたまたまなのでしょうか。
宮城県のある森でオニグルミの繁殖生態を詳しく調べた東北大学の清和先生たちの研究によると、同じ森の中には先にオスになる木とメスになる木が半分ずつ存在しているということが示されています。
「あなたが先にオスになるなら私はメスになるから、私がオスになる時にはあなたがメスになってね」と、効率よく多様な遺伝子を持つ子孫を残すために示し合わせているようです。
なんと不思議なことでしょうか、植物の生態には驚くことばかりです。
以上、マニアックな樹木の生き様紹介でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。